第三十三話『以前はなかった』

153 :高峰さん(代理) :2006/12/17(日) 01:46:28 ID:fHE6YFQe0
【033/100】

中学のときの話です。
うちは親の仕事の都合で転校が多かったんですが、
中2のとき、小1まで住んでいた土地へ戻ってきたんですね。
そこは持ち家で、離れている間は人に貸していました。
越してきて庭を見ると、以前はなかった小さな祠が片隅に作られていました。
特に気味が悪いとか、そういう悪い感じはしなかったんですが、
どうして作られたのか不思議に思って親に尋ねてみたところ、
はっきりと答えてくれません。
屋内にも、トイレと、台所、神棚のある部屋に、
どうもお札がはられていたらしいのですが、
こちらも詳しいことは教えてくれない。
ある夜、自分の部屋で寝ていると突然金縛りがきました。
初めてだったので、なんとか動かないものか身をよじったり、腕を動かそうとしたり。
こりゃほんとに動かない、ダメだなぁ、と仰向けのままぼんやり思っていると、
ふと、真っ暗なはずの室内の、丁度頭の斜め上あたりがほのかに明るいことに気がつきました。
オレンジ色の暖かな光が、ぼうっと揺らいでいる。
あんなところに明かりの灯るものあったっけ?と考えていると、
赤ん坊の泣く声がその明かりのほうから聞こえてきたんです。
少しずつ大きくなったり、小さくなったり。
その波のような音を聞いているうちに睡魔が襲ってきて、目が覚めると翌日の朝でした。
後でよくよく親に聞いたところ、
貸していた家族の奥さんが流産にあったそうで、
庭の祠やお札は、その水子を慰めるものということでした。
それからなぜか金縛りに合いやすい体質になってしまって、
思春期のピークの頃は難儀しましたよ。
【完】